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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)533号 判決

控訴人 渡邉真

右訴訟代理人弁護士 吉村駿一

被控訴人 有限会社マタイチ商事

右代表者代表取締役 佐藤保雄

右訴訟代理人弁護士 内田武

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  本訴請求について

請求原因1の事実(被控訴人が藤栄に対する前橋地方裁判所昭和六一年(ヲ)第二二二号不動産引渡命令の債務名義を得たこと)は、当事者間に争いがない。

控訴人は、富忠が昭和四六年九月三〇日本件(一)の建物を、昭和四八年四月一五日本件(二)の建物をそれぞれ建築し、あるいは藤栄から贈与を受けた旨主張するが、後記二で見るとおり、右の各建物はいずれも藤栄が建築したものであり、また、同人が豊忠に贈与したものでもないのであるから、右の主張は失当である。

したがつて、豊忠から右の各建物を買い受け、それらについて所有権を有することを根拠とする控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  反訴請求について

1  請求原因1の事実(藤栄がもと本件(三)の建物を所有していたこと)は、当事者間に争いがない。

2  ≪証拠≫によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件(三)の建物は、居宅用として昭和一八年頃藤栄の父によつて建築され、藤栄に相続された後昭和四六年五月三一日付けで同人名義に保存登記された。右建物には、藤栄及びその妻並びに同年当時で未だ一五歳でしかなかつた五男の豊忠を初めとして、一七歳、一九歳、二一歳、二三歳の五人の子供の家族全員が居住していた。

(二)  藤栄は、そのころ材木業を営んでいたが、昭和四六年九月頃、右材木業の作業所として使用するため、同人所有の同一敷地(以下「本件敷地」という。)内に本件(三)の建物に隣接して本件(二)の建物を築造した。本件(二)の建物は、一階が作業所で、二階が八畳二間の居宅部分であつたが、二階は一階に比べて遥かに狭いうえ、便所、台所、風呂場がなく、独立した居宅として使用するには不十分であつた。更に、藤栄は、昭和四八年頃、本件(三)の建物の東側の平屋部分の一部を取り壊し、屋根の出つ張つた部分を切り取り、壁や柱を共用にしたうえ、右各取壊し部分に接着させた形で本件(一)の建物(ただし、当時は独立の建物としての登記は経由されていない。後記の登記経由に至るまで以下同じ。)を本件(三)の建物に増築し、増築部分をも含めた全体を一体として、従前同様居宅として使用していた。なお、右各建物(部分)の建築及び増築費用はすべて藤栄が負担し、また、右増築部分である本件(一)の建物については勿論のこと、本件(二)の建物についても独立した建物としての保存登記がなされることはなかつた。

(三)  昭和五七年四月一日、本件敷地及び本件(三)の建物につき昭和五一年七月二八日受付に係る根抵当権設定登記を経由していた群馬県商工信用組合の申立てに基づき、前橋地方裁判所により不動産競売開始決定がなされ、同月三日その旨の差押え登記が経由された。同裁判所から現況調査を命ぜられた執行官の松本典雄は、同年七月二七日、現地に臨んだところ、本件(三)の建物と本件(一)の建物とは、前記のとおり藤栄及びその家族によつて一体として居宅として使用されていたこと等から、右各建物を一個の建物と認定し、また、本件(二)の建物については、先に見た右建物の状況や本件(三)の建物との隣接状態等から、これを本件(三)の建物の附属建物と認定し、右認定どおりの現況調査報告書を作成したうえ、同裁判所に提出した。これを受けた同裁判所は、右報告書に基づき本件各建物を本件敷地(及び藤栄所有の他一筆の土地―地積二八平方メートル)と共に一括して売却することとして、競売手続を進めた。なお、右執行官が現況調査のため藤栄に面接した際、同人からは、本件(一)の建物が本件(三)の建物とは別個独立の建物であつて自己の物ではないとか、本件(二)の建物が豊忠の所有に係るとか、右執行官の認定に抵触するような主張はなんらなされなかつた。

(四)  昭和五七年一一月、藤栄は、豊忠を申請名義人として、前橋地方法務局群馬出張所に対し、本件(一)、(二)の各建物についての表示登記の申請をしたところ、本件(二)の建物については同月八日付けで申請どおりの登記がなされたが、本件(一)の建物については、現況の調査のため現地に赴いた右出張所の係官から、このままでは独立の建物とは認められないから申請は却下せざるを得ない旨の指示がなされたため、藤栄は、ほぼ増築した部分に沿つて床や庇等の一部を切断し、本件(一)の建物と本件(三)の建物との間に約一五センチメートル程の間隔を作り出したうえ(しかし、それにも拘わらず、右切断部分は本件(三)の建物から完全に離脱してはおらず、建物としての独立性を具備するに至つてもいない。)、同年一二月三日、再度豊忠を名義人として、本件(一)の建物についての表示登記の申請をしたところ、同月六日付けで右申請どおりの登記が経由された。

以上のとおり認められる。

右の認定事実によれば、本件(一)の建物を本件(三)の建物に増築したのも、本件(二)の建物を建築したのも、いずれも藤栄であることは明らかである。

控訴人は、本件(一)、(二)の各建物は豊忠によつて建築され、もしくは藤栄から豊忠に贈与されたことにより豊忠の所有となつた旨主張し、右主張に沿う証拠として、甲第七、八号証(いずれも上柿幹雄から豊忠宛ての工事代金の領収書)を提出し、更に、原審証人藤栄及び当審証人上柿幹雄は右主張に沿う供述をするが、そもそも右の領収書は、紙質、記載内容、記載形式等に徴すると、同一の機会に作成され、しかも作成後それ程長い期間を経ていないと認められるうえ、右領収書には、その作成名義人とされている上柿幹雄にとつても趣旨不明瞭な箇所すら存する(これは当審証人上柿幹雄の証言により認められる。)のであつて、作成者とされている者が真実作成し、かつ、真実の内容を記載したかについては極めて疑わしいといわなければならず、加えて、右増築工事等の際未だ中学生程度の年少者であつた豊忠が右の各工事の施工主となるのはいかにも不自然であるうえ、豊忠が藤栄から贈与を受けたと認めるのを相当とする事情も認められないのであり、右の諸事情及び前掲各証拠に照らすと、右控訴人の主張にそう証拠部分はいずれもたやすく措信できない。

しかして、右の認定事実によれば、本件(一)の建物は、それ自体独立した建物ではなく、藤栄によつて本件(三)の建物と構造上一体をなすものとして増築されたものであるから(これに抵触する甲第一〇号証の一の記載部分は、右認定事実に照らしてたやすく措信できない。)、右増築により本件(三)の建物に附合したと認められる。もつとも、前記のとおり、その後、右合成した建物から本件(一)の建物が切り離され、豊忠名義に保存登記がされているが、右切離しや登記の経由は、先に見たそれ等に至る経緯等に鑑みると、本件(三)の建物に対する根抵当権設定登記後に藤栄によつて増築された部分に対する競売を免れるために敢えてなされたものと認めるのほかないうえ、先に見た切断の状況をも勘案すると、右切離し等により本件(一)の建物が本件(三)の建物とは別個の独立の建物としての性質を有するに至つたものとは到底考えられない。

ところで、本件(二)の建物が本件(三)の建物の附属建物として右(三)の建物の処分に随うものであるか、それとも右(三)の建物とは独立した建物として独自に処分されるべきものであるかどうかについて見るに、ある建築物が独立の不動産として独自に処分されるべきものであるかどうかについては、当該建築物の物理的構造のみならず取引あるいは利用の目的としての諸般の状況をも参酌して決定すべきものであるところ、本件の場合、本件(二)の建物は、本件(三)の建物に居住して材木業を営む藤栄が右営業のための作業場として建築したものであり、現に主として右作業場として使用されており、居室もあるものの極く狭く、人が独立して居住するのに必要な便所、台所及び風呂場もなく、そのうえ居宅である本件(三)の建物に隣接して同一敷地内に建つているのであつて、このため、執行裁判所から現況調査を命ぜられて現地に臨んだ執行官も本件(二)の建物を本件(三)の建物の附属建物と認定し、同裁判所も又右認定に沿つた手続を進めたのであつて、これらの諸事情に鑑みると、本件(二)の建物は、本件(三)の建物の附属建物として右(三)の建物の処分に随うべきものであると認めるのが相当である。もつとも、本件(二)の建物も本件(一)の建物と同様豊忠名義に保存登記が経由されてはいるが、右登記の経由は、先に見た本件(一)の建物の場合と同様、本件(三)の建物に対する根抵当権設定登記後に藤栄によつて建築された本件(二)の建物に対する競売を免れるために敢えてなされたものと認めるのほかないのであり、いずれにしても右登記の経由のみによつて前記判断が左右されるものではない。

3  前掲甲第六号証によれば、被控訴人は、昭和六一年一〇月二九日、藤栄から本件(三)の建物を競売により取得したことが認められる(被控訴人が右建物を藤栄から競売により取得したことは、当事者間に争いがない。)ところ、前記のとおり、本件(一)の建物は本件(三)の建物の増築部分であつて、同建物の構成部分として同建物に附合しており、また、本件(二)の建物は本件(三)の建物の附属建物として同建物の処分に随うものであるから、右のように被控訴人が藤栄から本件(三)の建物を競売により取得した結果、本件(一)、(二)の各建物もまた競売の目的物として被控訴人の取得するところとなつたというべきである。

4  請求原因4の事実(控訴人が本件(一)、(二)の各建物につき所有権移転登記を経由していること)は、当事者間に争いがない。

5  以上によれば、所有権に基づき、本件(一)、(二)の各建物につき真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を求める被控訴人の反訴請求は理由がある。

三  よつて、控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人の反訴請求を認容すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却する

(裁判長裁判官 村岡二郎 裁判官 鈴木敏之 滝澤孝臣)

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